パートナーセールス研究会 発起人の葛西(@kasai_201406)です。
数はほぼゼロ——。
これは一部の企業の話ではなく、PRM導入企業の多くが直面する構造的な課題です。そして私自身、この問題はPRMというプロダクトカテゴリにおける最も根本的な問いだと考えています。
なぜこの問題は「あるある」で片付けてはいけないのか
「パートナーがツールを使ってくれない」という悩みは、よく「運用の問題」や「定着施策の不足」として語られます。しかし、それは本質を見誤っています。
PRMに限らず、相手に新しいツールへのログインを強いるという行為自体に、見落とされがちな前提があるからです。それは、ベンダーとパートナーの間にある力関係です。
日本のパートナービジネスにおける「力学」

海外のPRM事例を見ると、ベンダーがパートナーに対して「当社のポータルにログインし、案件を登録し、トレーニングを受けてください」と求めるのは比較的自然なことです。
しかし、日本の代理店ビジネスでは、多くの場合パートナー(代理店)側の方が立場が強い。
これには構造的な理由があります。
- 代理店は複数ベンダーの商材を扱っている:1社のベンダーに依存していないため、ベンダーの要求に従うインセンティブが弱い
- エンド顧客との関係を握っているのは代理店:顧客接点を持っているのはパートナー側であり、ベンダーはその接点を「借りている」立場
- 商流の主導権が代理店にある:特に大手代理店の場合、ベンダーが「お願いする」側であることが多い
- 代理店の営業担当は多忙:複数商材を抱える代理店担当者にとって、各ベンダーのツールに個別にログインする余裕はない
この力学を無視して「ログインしてください」と言っても、使ってもらえないのは当然です。むしろ、「なぜログインしてくれないのか」ではなく「なぜログインしてくれると思ったのか」を問うべきかもしれません。
「ログインしてくれない」5つの原因

力学の問題を前提としつつ、具体的な原因を整理します。
1. ログインする理由がない
パートナーポータルを用意しても、そこにパートナーにとって価値のある情報がなければ、ログインする動機が生まれません。
ベンダーが「見てほしい情報」と、パートナーが「見たい情報」は往々にして異なります。ベンダーは製品アップデートや販促資料を並べがちですが、パートナーが本当に欲しいのは自分の案件の状況、自分のインセンティブ、自分に関係のある情報です。
2. 既存の手段で事足りている
メール、Slack、LINE、電話——すでにパートナーとの連絡手段は確立されています。パートナーからすれば、わざわざ別のツールにログインしてその中のチャットでやり取りしなくても、今のやり方で困っていないのです。
「便利なツールを用意しました」は、ベンダー目線では善意ですが、パートナー目線では「また管理ツールが増えた」でしかありません。
3. ツールが複雑すぎる
多機能なPRMほど、UIが複雑になりがちです。初回ログイン時に「何をすればいいか分からない」と感じた瞬間、パートナーは2度と戻ってきません。
特に海外製のPRMツールは、日本の商習慣に合っていない画面設計であることも多く、このハードルはさらに高くなります。
4. 導入時の巻き込みが不十分
契約書を締結し、アカウントを発行し、ログインURLをメールで送る——これで「導入完了」と思っていませんか。
パートナーの現場担当者が実際に画面を触り、自分にとっての価値を体感する機会がないまま放置されると、そのアカウントは永遠に使われません。
5. ベンダー側の運用が止まっている
ポータルの情報が半年前のまま更新されていない。案件ステータスが反映されていない。通知が来ない——。ベンダー側が「生きたツール」として運用できていなければ、パートナーが離れるのは当然です。
ログイン率を上げるための実践施策

原因が分かったところで、改善策を考えてみます。
「ここにしかない」を作る
パートナーがログインする最大の動機は、「ここでしか得られない情報がある」こと。
- 自分の案件の最新ステータス
- 自分のインセンティブ・コミッションの確定情報
- 自分だけに提供される限定キャンペーン情報
「あると便利」ではなく「ないと困る」情報をPRMに集約できれば、自然とログインは増えます。
オンボーディングで「一緒に触る」
アカウント発行後、パートナーの営業担当と一緒に画面を操作する時間を必ず取る。15分でも構いません。「自分で触って、使い方が分かった」という体験が、その後の利用率を大きく左右します。
通知の設計を工夫する
メールやチャットで「PRM上に新しい情報があります」と伝えるのではなく、必要な情報をメール本文に載せたうえで「詳細はこちら」のリンクをつける。パートナーが「わざわざログインしに行く」のではなく、日常の導線の中で自然にPRMに触れる設計にする。
小さく始めて育てる
いきなり全機能を使わせようとしない。最初は1つの機能だけ——たとえば「案件登録だけ」「資料ダウンロードだけ」に絞って、パートナーの負荷を最小限にする。慣れてきたら徐々に広げる。
ログインしたら何かしらのインセンティブを付与する
PRMの初回ログインしたら、週●回以上PRMにログインしたら、等の条件を付けて、それらを達成した場合は「手数料率●%UP」「Amazonギフト券●万円プレゼント」などのパートナーの営業担当にメリットとなるようなインセンティブを付与するというのも1つの方法です。
ただ弱点として、インセンティブ付与がされるタイミングしかログインされないというオチになることもあるので、注意は必要です。
それでも解決しない「根本的な問い」

ここまで「ログイン率を上げる施策」を紹介してきましたが、正直に言ってしまうと、これらの施策で劇的に状況が変わるケースは多くありません。
なぜなら、前述した日本の代理店ビジネスの力学——パートナー側が立場が強く、ベンダーのツールに合わせてもらうこと自体が構造的に難しい——という問題は、運用施策では解消しきれないからです。
ここで立ち止まって考えるべきなのは、そもそもの設計思想ではないでしょうか。
「パートナーにログインしてもらう」前提を疑う
多くのPRMは、パートナーにポータルへログインしてもらい、そこで案件を登録し、資料を閲覧し、トレーニングを受けてもらうことを前提に設計されています。
しかし、「パートナーがログインしなくても、パートナーとの関係を管理できるPRM」という設計思想はあり得ないのでしょうか。
たとえば:
- 案件情報はベンダー側が入力・管理し、パートナーには必要な情報だけをメールやチャットで共有する
- パートナーとの日常的なコミュニケーション(メール・チャット・電話)をPRMが裏側で集約・構造化する
- パートナーは今まで通りの手段でやり取りするだけで、ベンダー側のPRMにデータが蓄積される
つまり、パートナーの行動を変えるのではなく、ベンダー側のシステムがパートナーの既存の行動に合わせるという発想の転換です。PRMの本質は、パートナーとの関係を可視化し、間接販売チャネルの成果を最大化することです。
そのためにパートナーのログインが不可欠なのか?——この問いに対する答えは、必ずしも「Yes」ではないはずです。
「使われるPRM」と「使われないPRM」の分かれ目
ここまでの議論を踏まえると、PRMの成否を分けるのは機能の豊富さではなく、「誰の行動変容を前提にしているか」です。
使われないPRM:
- パートナーに新しい行動(ログイン・入力・閲覧)を求める
- ベンダーの管理都合を優先した設計
- 「使ってくれれば便利」が前提
使われるPRM:
- パートナーの既存の行動を変えない、もしくは最小限の変更で済む
- パートナーの日常業務の中に自然に溶け込む設計
- ベンダー側が能動的にデータを蓄積・活用する仕組み
特に日本市場では、パートナーとの力関係を踏まえた設計思想が、PRMの定着率を大きく左右します。ツールを選定・導入する際には、「パートナーにどこまでの行動変容を求めるのか」を事前に見極めることが重要です。
まとめ

「PRMにパートナーがログインしてくれない」は、運用の問題ではなく設計思想の問題です。
日本のパートナービジネスでは、代理店側の方が立場が強いことが多い。その力学の中で「ベンダーのツールにログインしてください」と求めること自体に、構造的な無理があります。
ログイン率を上げる施策はもちろん大切ですが、それと同時に、「そもそもパートナーにログインを求めない設計」は可能か?という問いを持つことが、これからのPRM選定・活用において重要な視点になるのではないでしょうか。
パートナーの行動を変えるのではなく、パートナーの行動に合わせる——その発想の転換が、PRMを「導入したけど使われないツール」から「パートナーセールスの基盤」へと変えるカギになるのではないかと考えています。
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