パートナーセールス研究会 発起人の葛西(@kasai_201406)です。
9/17(木)に、パートナーセールス研究会主催の勉強会「3つの販路、成功も失敗もひととおり ― 大手販社・金融機関・士業のSMBパートナーセールス実行論」を開催しました。会場は株式会社アイリッジ様のオフィス(神谷町)をお借りし、SaaS・IT企業のパートナーセールス担当者を中心に24社・31名の方にご参加いただきました。
講師を務めていただいたのは、HRtech企業の執行役員として西日本エリアのフィールドセールス/パートナーセールスを統括し、その後は動画SaaS企業でパートナーチャネル立ち上げ責任者を務め、現在はbalance株式会社の代表としてSaaS企業のパートナーセールス支援を手がける井上慎也(いのうえ・しんや)さんです。
今週は、そのセミナーレポートを書かせていただきます。

講師自己紹介

井上:
今日は、タイトルにもあります通り「3つの販路で成功も失敗もひととおり」ということで、大手販社、金融機関、士業という3つの販路について、私が経験してきたことを皆様に共有させていただければと思っています。成功よりも失敗の方を多く経験しておりますので、何か皆様が今日持ち帰っていただいて、パートナーセールスを加速するためのアイデアとして、ヒントになればと思っております。
まず私は、balanceという会社を立ち上げておりまして、支援の領域としては生成AI、HRテック、SaaS、リーガルテック、マーケティング、研修サービスという形で、幅広くやらせていただいております。この9月末で丸3期を迎えまして、10月から4期目に突入していくという、まだまだ若い会社でございます。

私自身は、パートナーセールスを11年ほど経験しています。HRテック系の企業で執行役員として西日本のパートナー制度の責任者をやっていたり、その後はコミュニケーションDX・動画SaaSの会社でパートナーチャネル立ち上げの責任者をやらせていただいたりしていました。11年前は当然「パートナーセールス」という言葉もなくて、「代理店営業」のような形でした。
先ほど葛西さんもおっしゃっていましたが、当時はフィールドセールスとパートナーセールスの間にヒエラルキーのようなものも大きくて、「受注できない人が代理店営業に行く」というような変な風潮がありました。それも今はなくなって、こんなコミュニティができるくらい「パートナーセールス」という職種が認知されていることを、本当に嬉しく思っております。
得意な領域としては、ARR20億円くらいまでの会社のパートナー戦略の設計から実行支援・代行までやっています。実際にその会社さんの名刺をいただいて、代理店と交渉したり、商談リストを作ったりということまでやっていますので、現場感を大切にしながらご支援をさせていただいているという形になっております。
今日のアジェンダですが、3つの販路それぞれの実行論というところと、事前にいただいたご質問への回答ができればと思っております。初めに「なぜ案件が増えないのか」というところから、大手販社・金融機関・士業の順にお話しして、最後に事前質問への回答まとめという作りでお話しできればと考えております。
なぜ案件が増えないのか ― 「パートナーが自社サービスを思い出せない」
井上:
初めに、まず「パートナーが増えない」のではなくて、「パートナーが自社のサービスを思い出せない」ということが、やっぱり一番大きいかなと思っています。契約社数は増えて勉強会もしているけれども、その先で実際の代理店さんがお客様のところに行っていただいた時に、自社のサービスが頭に浮かんでこない。だから提案がされない、案件が上がらない、ということかなと思っていまして、この「想起」の部分でかなり落ちているのではないかと思っています。
ですから、どうやって常に想起される状態を作っていくかという部分が非常に重要かなと思っていまして、そういったところも踏まえてお話ができたらと思っています。
3つの販路は構造が違う ― 共通するのは「ベンダー側に楽はない」

井上:
そしてこの販路の部分ですが、やっぱり3つの販路は全部構造が違うんですね。会社によっても当然違ってきますし、扱うサービスによっても変わってきます。
大手販社さんがあって、金融機関さんがあって、士業さんがあるんですけど、最初の入り口はどこから入った方がいいのか、相手が動く動機は何なのか、規模感はどうか、といった部分で全然構造が違うので、この構造を理解した上でやっていくということが必要になります。
ただ、一つだけ共通していることがあります。ベンダー側のリソースに関しては、どの販路も楽ができるものはないということです。結構フル稼働で、全力でやる必要があって、そうじゃないと立ち上がらないと考えておりますので、この部分も踏まえて、私の失敗や成功をお話しできればと思っています。
【大手販社編】商流をつくり、「組織の中の個人」を動かす
井上:
まず最初に大手販社さんのお話をしたいと思います。大手販社さんというと、大塚商会さんやFBJ(富士フイルムビジネスイノベーションジャパン)さんをはじめ各社ありますが、今日は、私がこれまでやりとりさせていただいた大手販社さんでの経験に思いっきりフォーカスしてお話しさせていただければと思っています。
取引の前に「商流」を作っておく

井上:
その前に、お取引をする前に最初に書類を整えておかないといけないんですね。ここが抜けているケースが多いんです。私も実は抜けていました。自社(ベンダー)があって、最初にディストリビューターさんがいて、その先に大塚商会さんなどの販社さんがいる。
ここでちゃんと仕入れができる状態を作った上で、大手販社さんの方に行かないといけないというのが大前提だと思っています。
大手販社さんにも、もちろんイレギュラーで直接取引できる特別なやり方があるんですね。ただそうなると通常の商流ルールと違うので、組織として「売りましょう」となった時に「なんとか商流をうまく作ってもらえませんか」という声の方が大きくなってきて、なかなか広がりが出てこない。だからこそ、最初にちゃんと商流を作っておくというところが大事かなと思っています。
私はHRテックの会社でこの失敗をしました。めちゃくちゃな商流になっていて、すごくやりにくかったんです。
ですので、まずはシンプルにお取引できるように、ディストリビューターさんを含めて商流をしっかり作っておくということが重要だと思っています。
開拓は「人脈」から。「売ってほしい」ではなく、相手が自然に乗れる状態を作る
井上:
開拓についてですが、やっぱり「人」が重要だと思っていまして、人脈からの紹介ですね。
まず辿れる入り口を、どなたか人脈の中で一つ作って、相手の組織構造をちゃんと把握して、個人を特定して、その個人に会いに行く、というのが大事かなと思っています。組織理解ももちろん重要なので後ほどお伝えしますが、人づてで接点は結構作りやすいですね。ご自身の人脈、あとは顧問系のサービスもありますので、そこから人脈をうまく使っていくところがいいのかなと思います。
そしてアプローチの仕方です。5、6年前であれば、こちらから「売ってほしい、売ってほしい」「このサービスを売るぞ」という形でしたが、今の動きはかなり変わっています。
お客様の課題があってから製品を紹介するという形になっていますので、こちら側から「売ってほしい」ではなくて、きちんと相手が自然に乗れる、紹介できる状態を作ってから、人脈を通してお話を進めていくのが良いかなと思っています。
動かすのは組織ではなく「個人」― 意思決定者・推進者・エース・ムードメーカー

井上:
動かすのは組織ではなくて、組織の中の「個人」をどうアプローチして、どう動かすかということだと思っています。
例えば、意思決定者の方がいて、それを推進してくれる支援者がいて、エースがいて、ムードメーカーがいる。これは全部が一つの組織の中にいるわけではないので、この中でどの方がその組織にいらっしゃるのか、どの方をしっかりターゲットにして接点を取って動いていけばいいのかを決めた方が、動きやすいと思っています。
例えば推進者の方ですと、結構積極的に勉強会をしてくれたり、その中のキーマンを教えてくれたりします。「あの人と一緒に動いた方がいいよ」といった形ですね。ムードメーカーの方が決まると雰囲気が盛り上がりますし、「他の人もしっかりフォローした方がいいよ」といったことを教えてもらえたりもするので、誰がどういう役割を担っているかを見極めて動く方がいいのかなと思っています。
特に受注が出た時には、現場の方に、定例会や振り返りの会でしっかりと発言してもらいます。しっかり自慢していただく感じですね。「なんでうまくいったか」「なんで決まったか」を発言していただいて、そこでまた興味・意欲が高そうな人に狙いを定めて一緒に動いていく。
そんな形ですので、個人をしっかり特定しておいた方がいいというところ。そしてもう一つが時間軸です。
時間軸(人事異動)と展示会・「内覧会」の活用
井上:
人事異動が基本的には3月と9月になります。ですから、3月・4月は商談が比較的出にくいんですね。9月・10月も結構出にくいです。
それに伴って施策が切り替わるのは当たり前だと思うのですが、そこで大切なのが、大手販社さんは展示会をやっていますが、お客さんを連れてくる展示会と、営業の人だけに向けた「内覧会」をやっているんですね。ここへの誘導は認知を広げるチャンスなので、狙った方がいいです。
「こういうイベントはいつやるんですか」「今回のテーマは何ですか」といったことを、推進者や支援者、意思決定者も含めて情報を取りながら、ここをしっかりターゲティングしておくといいと思います。
内覧会は結構緩やかな時間が流れていて、だいたい8時間で、50人から100人ぐらいの営業の方が来ていただくんですね。ゆったりしているので、しっかり喋れるんですよ。そこで名刺をもらって、名刺の中で絶対に見るのは、どこの部門に所属しているのか、どんな業種領域を担当しているのか。そこから可能性があれば広げていくアプローチをするので、やっぱり営業の方の認知って大事ですね。
この内覧会に参加するために、企画を担当している部署は誰か、担当者は誰かというところもしっかり仕入れておいて、内覧会のオファーを取り逃さないようにすることが良いと思っています。
キーマンプロファイルシート

井上:
キーマンのプロファイルシートということで、拠点ごとにこういう項目を埋めていくと動きやすいと思っています。まず当然、拠点名。何々営業部の営業支援の方なのか、一営業なのか。その方の役割はリーダーなのか、マネージャーなのか。
そのほか、層はどこなのか、役回りは何か、この人は誰と組んで動いているのか、どんな施策を持っているのか、自分たちのサービスをどう紹介できるか、次の一手は何か。こういった項目を埋めていただけると、細かくやればやるほど良いと思いますが、最低でもこのくらいは押さえていただいた方がいいと思っています。
自社リソース(代表・役員)の投入 ― 「社長を出すこと」が目的にならないように
井上:
もう一つは、自社のリソースをどう使うかです。先ほど申しました通り、私は名前のあるベンダーではなく、これから名前を売っていくというベンダーで活動していましたので、使えるリソースは本当に全力で全部使うという形でやっていました。ですから、代表や役員の方々にも協力していただく必要があると思っています。
大手販社さんのクラスになると、1拠点でメンバーが100人とか200人ぐらいいて、売上自体も何十億もやっていますので、1つの拠点がほとんど1つの会社と同じですね。ですから、その拠点の部門長や支社長を役員クラスと捉えて、ベンダー側がどう役員を当てていくかを考えることが重要だと思っています。
この層をしっかり見ていくというところと、どうやって接点を持つか。そして「とりあえずご挨拶」だともったいないので、代表にどこまで踏み込んでほしいかというストーリーも考えていただけるといいと思っています。
社長を出すこと自体が目的にならないように、きちんと誰と、どういう戦略を持って、どのくらいの接点を持つために、目的は何かを決めていただきながらやっていただけるといいと思っています。皆様の役員の方々にもこういった場面に出てきていただいた方が、現場感もわかりますし、より協業が前に進むのではないかと考えております。
大手販社編まとめ:チェックリスト
井上:
一旦、大手販社様のお話をチェックリストに落とすと、以下のようになります。
- 商流はあるか(ディストリビューター経由で仕入れができる状態か)
- 辿れる入り口(人脈)は見つかったか
- 相手の営業組織(業種・拠点)を理解しているか
- 層を把握し、商品を選んでいる人・施策を考えている人は誰かを特定できているか
- キーマンが誰と組んでいるか、役割や施策を押さえているか
- 代表・役員をどう使っていくか、ストーリーを描けているか
【金融機関編】地銀を中心に
最初の1〜2行は「属人的」でいい。実績を作ってから横展開する
井上:
続きまして金融機関ですね。
地銀さんのお話ができたらと思っています。金融機関さんもやっぱり最初の突破口が難しいと考えておりまして、最初の1行・2行に関しては、属人的に特化していくやり方でいいと思っています。
例えば拠点を展開した時とか、現状で融資の取引があるとか、偶発的なきっかけとか、代表の出身が一緒で本人を知っている、といった形ですね。
この属人的な最初の実績作りの時にやりたいことは、地銀さんは他行の実績や自行の実績が大好きなので、この1行・2行で実績を作ることです。
実績を作ってから、3行目から横展開していきたい。もちろん相手の評価制度を理解した上で、自社のお客様の取引先から紹介してもらうということもあります。基本的には基幹支店があって、そこに小型支店が広がっているので、基幹支店を固めて横展開で広げる、ということができればいいと思っています。
最初の1個・2個は骨が折れますが、とにかく実績を作ってそこから横展開していける形にしていくことが良いと思っています。
地銀の評価指標「役務収益」を押さえる
井上:
皆さんご存知だと思いますが、今、地銀さんが追っているのは融資だけではなくて、当然融資の量にはノルマがあって最重要指標ではあるのですが、「役務収益」です。
これはよく出てくる言葉なので覚えていただいていいと思います。役務収益というのは、振込手数料や保険の紹介手数料、最近だとM&Aなどで、この役務収益にビジネスマッチングの手数料も含まれているんですね。
私たちはビジネスマッチングというと、いわゆる成功報酬というイメージになると思うのですが、これはどうしても他の項目に埋もれてしまいがちなので、埋もれさせないようにやっていくことが重要だと思っています。
そのために、地銀さん、それから各支店さんの規模感、どのくらいの役務収益の予算を持っているかをしっかり把握することが重要です。役務収益の金額が把握できると、手数料のバック度合いや金額でどれくらい魅力的に感じていただけるかも変わってきますので、この部分をしっかり把握していただくといいと思っています。
ビジネスマッチングの現状と可能性
井上:
今現状ですと、「融資だけでは厳しい」というのは今に始まった話ではなくて、もう7、8年前からそうなっていて、そこでビジネスマッチングがわっと広がって、今は逆に飽和状態になっているので、結構絞り込みをかけているところだと思っています。
ですので、そんなに簡単ではないのですが、AIを含めた領域は銀行さんもまだビジネスマッチングに組み込んでいなかった領域だったりもするので、結構チャンスもあると思っております。その観点で、今皆さんにチャンスがあるのではないかと思っております。
行員に刺さるのは「簡単」と「効率的」

井上:
行員さんに刺さるのは「簡単」と「効率的」だと思っています。日々お忙しくて、融資をしたり稟議書を書いたりしている中で、自分たちのサービスを細かくしっかり説明して、正しく理解した状態でお客様に持っていく、ということはあまりしていただけません。できるだけ簡単に持っていって興味を持っていただけるかを考えるといいと思います。
「紹介するだけでいいですよ、あとはこちらが全部巻き取りますよ」。チラシを見せていただいて、こういうトークをしていただいて、最後は「同業他社の事例を聞いてみませんか」で締めてトスしてください、という感じで、もう型を決めてあげる。「紹介するだけでいいんですよ」ということと、「全部こっちが巻き取るので、保険を自分たちで売っていくよりも効率がいいです、M&Aをやっていくより効率がいいですよ」ということ。そして「これだけやっていただければ大丈夫です」という形をお伝えするといいと思っています。
狙い目は第二地銀・第三地銀
井上:
第一地銀さんよりは、第二地銀や第三地銀さんの方が比較的役務収益の比率が高いと思っていますので、狙い目としては、私は第二・第三地銀の方がいいのではないかと思っております。
突破口の作り方 ― VC・CFO・他社プロダクト経由・FIT展・自社顧客からの紹介

井上:
最初は属人的にいくと申しましたので、最初の突破口として、資金調達を含めて協力いただいているVCさんやCFOの方々の繋がりで、まずは地銀を辿っていく。あとは融資のバーターをうまく使う。この辺は効果的だと思っています。
「他社プロダクト経由」というのは、地銀さんは人事系のサービスをすでに扱っていたりするんですね。
あとは年に1回のチャンスですが、10月中旬頃に開催される「FIT展」(金融国際情報技術展)という展示会がありまして、ここに2万人ぐらいの銀行員の方が来るので、ここに出展して接点を取っていくということもあると思っています。

もう一つ、自分たちの顧客から紹介してもらうということはすごくやっていました。取引先をリスト化して、関係性やどこと取引を持っているかを見ていくのですが、SMBのサービスは社長と近かったりすると思いますので、社長から直接「お取引先の担当行員を紹介してください」とお願いしていただいたり、依頼いただくだけだと申し訳ないので、例えば追加の経理支援の値引きを条件にご紹介いただく、ということもやっていました。
そこから担当行員につないでもらって、ビジネスマッチングの責任者に駆け上がって企画提案をしていく。自社の顧客の中で関係性がいいところは、ご紹介いただける可能性があると思っています。担当の行員さんも、その企業様のお取引先ですから無下にはできないので、あまり跳ねられることはないと思っています。関係性をうまく使っていただいてもいいと思います。
勉強会を「情報提供」で終わらせない ― 手書きシートと翌日の電話

井上:
勉強会は絶対にやるのですが、勉強会を情報提供で終わらせないで、地銀の皆さんとどう接点を取っていくかが大事だと思っています。
前半はサービス紹介がメインになりますが、後半が肝です。基本的に対面でOKであれば1回は絶対に行っています。「来てくれているベンダー」という印象も重視されていたりするので、まず1回でも、手書きのアンケート用紙を配って必要な項目を書いてもらい、名刺交換をさせていただくようにしていました。
地銀の方はご自身のメールアドレスを持っていなかったりするので、名刺に書いてある携帯番号が唯一の直接接点だったりするんですね。直接のメールアドレスがないと共有アドレスでふるいにかけられて、タイムラグも結構出ます。ですので、できれば対面でフィジカルにご案内することを心がけていました。
最近やっていたのは、お名前とご連絡先(携帯番号)、今日の話を聞いて頭に思い浮かんだ提案先はないか、次に訪問予定の時間はあるか、こちら側の支援でどんなことをしてもらったら嬉しいか、といったことを書いていただくシートです。それで必ず名刺を獲得する、という形ですね。
そして、勉強会の翌日に絶対に電話をしています。まずシートを回収して名刺と照合して、シートに書いてある内容である程度ランクを分けます。「この人は興味が強いな」「まあ普通」「全然ないな」とあるので、お礼を兼ねて必ず電話をして、その電話でシートに書いていただいた内容に即したご提案フォローをさせていただく。ここが結構ポイントだと思っています。
受注事例は1枚のニュースレターにして配る
井上:
もう一つ、銀行さんは特に自社の実績が好きなので、1件の受注が生まれたら必ず事例を1枚のニュースにして配っています。そうすると他支店から声がかかります。やっていたやり方としては、許可を取って、発信者を通じて各支店に封書で送っていいですかという確認を取って、その封書の中に支店長宛のニュースレターを入れて送るんですね。
難しかったこと ― 一気通貫と分業、属人化のジレンマ
井上:
なかなかやっぱり銀行さんは難しくて、ベンダーサイドの「人」によって金融機関側の反応が変わることが多かったので、距離の詰め方やフォローなど、同じやり方が全然効かなかったという部分があります。
また、ベンダー側のパートナーセールスが開拓から提案、受注まで一気通貫でやると、どうしても属人化が激しくなって、仲の良いところはやるけれど、そうでないところはやらない、という形で商談の発生や受注数にばらつきが出たりします。
かといって分業にすると、今度はパートナーとの関係が深まりにくかったりする。ここは本当に難しかったのですが、誰が何をどの順番でやるか、ここだけ決めておいて、その通りやって、その中で出てくるボトルネックを一緒に解消していくということをやっていました。
特にこの「距離の詰め方」のような、言葉にするのが難しい部分は、結構苦労したなと思います。
金融機関編まとめ:明日からできるチェック

- 自社の顧客の取引先金融機関をリスト化する
- 第二・第三地銀に絞って、ビジネスマッチングの紹介担当者の名前を特定する(見つけ方を変える)
- 基幹支店と支店長代理の名前を調べる
- 勉強会のやり方を変える(手書きシート+名刺獲得)。勉強会の後には必ず電話をする
- 受注1件目を含めた事例をニュースレターにして配る
【士業編】大きい事務所ほど動かない。狙いは10〜20名規模と「動く職員」

井上:
続いて士業ですね。
私の感覚だと、結構大きい事務所ほど動かないという印象があります。10名から100名、100名以上の士業事務所ってそんなに多くないと思っていまして、100名を超えてくると基本的にはもう自社サービスしか扱わないという印象があるので、20名ぐらいのところが個人的には一番効率的だったと思っていて、ここに狙いを定めていました。

代表の先生が「じゃあやりましょう」となってもなかなか案件は出てこなくて、代表の先生はすごく忙しいので、先生の右腕になって動く職員さんが絶対にいらっしゃるので、この人が誰かを特定するのがポイントだと思っています。
最初に「この製品はどの業界のどういうところに持っていってください」と伝えるだけではなかなか動いてもらえないので、できたらその動く職員さんと、小さな塊でもいいので個別面談をさせてもらって、「皆さんのお客さんにはどんなお客さんがいらっしゃいますか」というところからちゃんとヒアリングする。
出てきたお客様に対して「このお客様だったらこういう形で持っていっていただけるといいのではないですか」と、個別最適化した持っていき方を提案するのが良いと思っています。
価格差への誤解を解く ― 1件目は必ず同行する
井上:
もう一つネックになっていたのが、自社の顧問料より高いサービスは「マインド的に売れないかな」と思われるケースがよくあるので、持っていかない、ということがあります。
ですから、先ほど申しました通り誰に声をかけるかをちゃんと定めて、お客様の反応が読めない不安を外してあげて、アプローチとしてはどう言えばいいのかを伝える。そして訪問には必ず同行する。1件目を一人で行かせるのはやめた方がいいですね。絶対に一緒に行った方がいいと思っています。
士業の方のサービスと自社のサービスは当然価格が違うのですが、価格が違ったとしてもお客様は興味を持ってくださる、という誤解を解くことが重要だと思います。
もっとライトにやるのであれば、士業の方々には長年お付き合いがあって「何か言えば話は絶対聞いてくれる」というお客様がいらっしゃったりするので、非常に懇意な先にテスト的にインタビューのようなことをやらせていただいて、隣にいていただいた時に「お客様の反応を見てもらえませんか」「どこに興味を示すか」「その価格に対してどう感じるか」を実感してもらう。
「これだったら他の自分のお客様に紹介しても問題ないよな」と思っていただけると結構自走していただけるので、士業の方は特に、先ほどの大手販社さんや地銀さんよりも丁寧にやってあげた方が良いと思っています。
士業編まとめ:チェック項目
- 10〜20名規模の事務所を狙う
- 代表以外の「動く職員」が誰かを特定する
- 個別面談で顧客をヒアリングし、こちらから個別最適化した提案と「言い方」を用意する
- 1件目は必ず同行する
事前質問への回答
井上:
事前にご質問をいただいておりましたので、4つほどご回答できればと思っています。
● 自社初の取り組みとして始めたばかり。マイルストーンや月次のKPIをどう設定して回すべきか?

井上:
最初の立ち上げのマイルストーンは、定性指標で置いていただくのがいいと思っています。
初めてやり出すと、数字をとにかく欲しくて、いきなり数値目標から着手する企業さんがあるのですが、その手前をしっかり固めた方がいいと思っています。
現状の自分たちのサービスの課題を含めたところをしっかり整理して、その上でどういった戦略を作るか、契約・報酬体系を作るか、というところを定性で置く。ここまでいくと、自分たちがどの領域を狙うか、最近よく言われる「パートナーの担当領域(テリトリー)」の考え方ではないですが、自分たちのお客様がどのパートナーさんの領域と接点を多く持っているかをちゃんと定めた上で開拓していく、ということが大事だと思っています。
そこから開拓して、フェーズが進む条件は「1件目の紹介が出た」といったこと。フェーズ3になってくると稼働の比率、安定稼働しているかどうか、を見ていただけるといいと思っていまして、フェーズごとに追う数字を変えるようにしています。
最初の6ヶ月や1年は数値目標を置いたとしても、それが実際の数値として意味のあるものなのかは難しいところがあるので、半年や1年ぐらいは基準値がどこかを定めるような期間にしてもいいと思っています。
ここは一定、経営の方々への説明とご理解が必要なところでもありますので、いきなりKPIを設定して「その通りになっていないじゃないか」となるよりは、基準値を見ながらどういう数字を追った方がいいのかを定めていく中でKPIを設定した方がいいのではないかと考えています。
● パートナー連携の実運用について伺いたい
井上:
運用としては、特にアクロバティックなことはなく、本部と本部で協業が始まるといったことであれば別ですが、基本的には同じことをしていきます。ただ、一番途切れるのは情報流通ですね。
「定例会をやりましょう」と言って定例会が決まればいいのですが、定例会まではまだ早いとなると、情報をしっかりと流通させていくことが必要になります。ここが途切れると、そのパートナーさんとの接点がどんどん細っていきますので、この情報連携をどうやっていくかが重要です。
営業の動向などを、四半期に1回はレビュー会のような形でしていただくのがいいと思っていまして、基本的にはこのサイクルの中で、特に情報流通の接点を途切れさせないように、自分たちが動いてほしいと思っているパートナーさんに対しては特にやっていただけるといいと思っています。
● 紹介に近いイベントや手法で、実際に契約につながった開拓ルートは?
井上:
開拓ルートの中でどこが契約につながったかということですが、やはり人脈が一番契約までの確率が高くて早かったと思っていますし、既存の顧客からの紹介なども確率は高かったと思っています。
アウトバウンドになってくると実績次第になってくると思いますが、ただ自分たちが狙っているパートナーに対してなので、契約が締結できると比較的ストーリーが組みやすかったりもします。
難易度はありますが、自分たちのサービスを見た時にどこから行くのかというところを踏まえてご検討いただけるといいと思います。やっぱり人脈が一番強い、というのは個人的には思っております。
● 速効性のないアクションの価値をどんな指標で判断し、期限を切るべきか?(金融機関向けの施策について)
井上:
最後、速効性のない施策をどう見るかということで、これは金融機関さんに限定したご質問をいただいておりまして、「その月に成約に繋がった施策ではないので、どう判断したらいいですか」というご質問でした。
私は、先行指標としてこれがちゃんとできていたら切らなくていいと思っているのが、勉強会の参加人数が一定である、記入シートの内容や回収率が一定ある、提案先や訪問予定日が入っていて翌日の電話につながった行員の数が1件でもある、ということであれば、そのままキープして継続していけばいいと思っています。
逆に、全くシートも集まらない、提案先も出てこない、電話もできない、という状況であれば、一旦置いて、使い方を変えてみて動くのであれば継続していただいてもいいですし、他の拠点に注力するという形でいいと思っています。
可能性を見ながら、その拠点に対してアプローチするかどうかを決めていく、という感じになっています。
総括:販路が違っても、やることは同じ ― 「1件目」を取って横に広げる

井上:
まとめになりますが、販路が違っても、やっぱり言っていることは同じだったかなと思っています。
SMBであれば、動かすのは「個人」からでもいけるというところ。ちゃんと相手の評価に乗せること。常に情報を流通させて思い出してもらうこと。そして1件目は絶対に取って、横に広げるということです。
1件目で逆に「売れない」と思わせてしまったら、そこから動かないので、1件目は特に丁寧に一緒に動いて、受注に至らずとも「案件化はした」という状態を作っていく方が良いと思っています。
「明日一つだけやるなら」というところで、大手販社であれば商流を確認して、拠点の組織図を作ってみましょう。
金融機関であれば取引先の金融機関をリスト化して、紹介のルートを探してみましょう。
士業であれば10〜20名規模の事務所で「動く職員さん」が誰かを、改めてもう一回探してみましょう。
こういったことをやっていただいてもいいのかなと思っています。
ちょうどお時間になりましたので、パートナーセールスをこれからも強化されていらっしゃる方、また外部支援をご検討の方がいらっしゃれば、このあとの交流会でもお話しできればと思っております。改めて、ご清聴いただきましてありがとうございました。

最後に
大手販社は「商流」と「拠点の個人」、金融機関は「役務収益」と「支店長代理」、士業は「動く職員」と「同行」。販路ごとに構造は違っても、相手の評価に乗せる・常に想起される状態を作る・1件目を取って横に広げるという原則は同じ、という井上さんのメッセージは、限られたリソースでパートナーセールスを立ち上げるSMBベンダーの実務者にとって、明日から動ける「実行の順番」になったのではないでしょうか。
勉強会後の交流会でも、参加者の皆さんと井上さんの間で活発な情報交換が行われました。会場をご提供いただいたアイリッジ様、ありがとうございました。

講師プロフィール
井上 慎也(いのうえ・しんや)さん
balance株式会社 代表取締役
パートナーセールス領域で11年以上の経験を持ち、SaaS企業を中心にパートナーチャネルの立ち上げ・拡大を推進してきた実務家。HRtech企業(売上約40億)では執行役員として西日本エリアのフィールドセールス/パートナーセールス執行役員本部長を務め、カスタマーサクセス部門の立ち上げにも従事。株式会社オープンエイトではパートナーチャネル立ち上げ責任者として、戦略立案から大手販社・地銀・コンサル会社などの開拓、育成、実行支援までを一貫して担当。2023年にbalance株式会社を設立し、SaaSスタートアップ向けのパートナーセールス支援を提供している。