アドベントカレンダー2025

日本のパートナービジネスの難しさ

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パートナーセールス研究会 発起人の葛西(@kasai_201406)です。

パートナーセールス研究会主催のパートナーセールスアドベントカレンダー2025ですが、11日目の本日は私、葛西が書かせていただきます!

何を書こうかなーと悩みに悩んだ結果、書きたいことがてんこ盛りになってしまいました(笑)

私からはたくさんの企業様とのパートナービジネスのディスカッションを通じて感じている、「日本のパートナービジネスの難しさ」について書かせていただこうと思います。

日本のパートナービジネスにおける課題の一丁目一番地

それは「パートナーさんが売ってきてくれない」という課題。

これまでパートナーセールス研究会を運営しながら、SaaS・IT・HR領域を中心に200〜250社程のパートナービジネスのお話を聞かせていただきました。その中で、どのメーカー企業さんにおいてもこの「パートナーさんが売ってきてくれない」という課題に躓いていることが圧倒的に多かったです。

ではなぜ、この「パートナーさんが売ってきてくれない」という課題に直面してしまうのでしょうか・・・?

【少し補足】

  • 今回はわかりやすく「売ってきてくれない」という表現にしておりますが、本来は「売ってきてくれない」と思ってしまってる時点で間違ってます。
  • 売ってきてくれないのではなく、パートナーさんに対して「メリットの大きい連携提案ができてない」だけです。
  • 「売ってきてくれない」と思ってる時点で、これはただの「他責」です。思考を変えましょう。

①メーカー<パートナーというパワーバランスの市場

まず、日本のパートナービジネス、特にSaaSのパートナービジネスにおいては「メーカー<パートナー」というパワーバランスとなっているということを前提として理解しておくことが重要です。
※ただし一部例外として、プロダクトがかなり強かったり、法改やマーケット環境の変化の後押しがあるケースは別で、「メーカー>パートナー」というパワーバランスとなるケースもあったりします(以下、一例です)。

  • プロダクトがかなり強い→zoom、slackなど
  • 法改正→電子帳簿保存法により、請求書や領収書などの電子保存義務化→それに対応できるプロダクトが売れる
  • コロナ禍における強制的なリモートワーク→電子契約サインやWeb会議が普及

パートナー側の取り扱い商材数は年々増加傾向にあり、取り扱い商材数が多いパートナー企業さんですと1,000個を超えるほどです。

また、下記の才流様の調査にもあるように、同一カテゴリ内の競合するサービスの取り扱いという観点でも複数商材を抱えていることがわかります。

出典:https://sairu.co.jp/method/22925/

これだけ多くの選択肢を抱えているパートナーさん側の立場からすると、

  • 経営陣:会社全体の収益が最大化できる手段・プロダクトを優先する
  • 事業部長や拠点長:自分の管掌する事業部、自分の管掌する拠点の成果が最大化できる手段・プロダクトの販売を優先する
  • 営業マネージャー:自チームに与えられている予算の達成に向けて、1番近道して達成できる手段・プロダクトを優先する
  • 営業担当:自分に与えられている予算の達成に向けて、1番近道して達成できる手段・プロダクトを優先する

というところが優先されていくわけです。

だからこそ、SmartHR 清水さんのnoteでも書かれているように、パートナービジネスにおける最重要テーマは「組織攻略」、つまりはパートナーの組織・個人を徹底的に理解することから始まります。
https://note.com/kenta_shimizu111/n/n4e92950d7d1b

そして徐々に「メーカー≦パートナー」→「メーカー=パートナー」といった具合に、真のパートナーへと昇格していくのです。

②パートナー契約開始直後から目標を握る、トップダウンで走らせることが難しい

上述の①で述べた例外を除き、基本的には「メーカー<パートナー」というパワーバランスであるため、パートナー契約開始直後からパートナー側と目標を握る、パートナー側のトップからのトップダウンで走らせるということが非常に難しいです。

パートナー契約開始直後から目標を握りたいのであれば、メーカー側の社長自らがトップ営業をする、もしくはビジネスデザイン力・提案力・交渉力・調整力に長けたスーパーマンを採用・登用するかのいずれかしかないように思えます。
※ただ、このスーパーマン、採用難易度が高すぎ&社内から引っ張る難易度も高すぎです。。

そもそも、パートナー側からすると、「目標(ノルマ)」を付けられることを嫌います。多数の商材を抱える中で、目標(ノルマ)を付けられることで他のメーカー側からも同様の要請を受けることになってキリがなかったり、目標(ノルマ)があるが故に顧客のニーズを無視した提案が横行してしまうといった弊害が生まれる可能性がある、などのデメリットが大きいためです。

そのため、最初から目標を握る・共通計画を立てにいくよりも、契約直後は

  • パートナーさん側の信頼残高が溜まっていくような活動を続ける
  • 自社のプロダクトを販売することで、パートナーさん側が得られるメリットをいくつも作る

というところにフォーカスを当てるべきです。

また、パートナー契約直後に実施する勉強会やトレーニング(理解度チェックテスト等)については、知識をインストールするというところに重きを置くのではなく、パートナーの営業の皆さんに

  • 商材を認知していただく
  • 提案していただけそうな営業の方を発見する

というところに重きを置くべきです。

目標が握れていたり、トップダウンによる強制力がない限りは、勉強会は「ほぼ誰も聞いていない」、知識インストールの学習コンテンツも「受けない、または他の営業と隣同士で適当に受ける」というようなケースがほとんどだからです。

このフェーズでの勉強会への参加率や学習コンテンツ受講率をKPIにおき、これを経て育成完了したと定義されてしまうと、KGIへ紐づかず成果が上がらないことがほとんどです。

また、「メーカー<パートナー」のパワーバランスの状態であると、各種資料が格納されているポータルサイトへのログインやPRMへのログインは機能しない(ログインされない)ことがほとんどで、最初のファーストペンギンとなる営業担当を見つけるデータも溜まりません。

③KGI/KPIの設計が複雑

直販では組織全体でKGIに受注金額や受注件数、KPIに商談数などを置くといった具合に、どこの企業もシンプルにKGI/KPIが設計できているかと思います。

一方でこれがパートナービジネスになると、設定すべきKGI/KPIがパートナー企業ごとによって変わってきます。なぜなら、パートナー企業ごとによって、販売実績や商材インストール度合いなどの習熟度が異なってくるため、パートナー企業ごとの習熟フェーズに分けたKGI/KPIが必要になってくるのです。

ちょうど今回のアドベントカレンダー企画でスマートドライブ 高田さんのnoteで書いてくださっているため、私からは詳細には書きませんが、各パートナー企業ごとの習熟フェーズに沿ったKGI/KPIを設定し、習熟フェーズに沿った活動・施策を実施し、それを言語化・定義化・型化していくことが重要です。

https://note.com/human_sable2162/n/n967f41983943

加えて、パートナービジネスにおいて実際に提案をしてきてくれるのはパートナー企業の営業担当の皆様ですので、パートナー企業単位のみではなくパートナー企業の営業担当単位での情報管理・フェーズ(習熟度)管理も必要になってきます。

パートナー企業の営業単位で管理することで、一例ですが下記のようなことが実現できたりします。

  • A支店のZさんは、B支店のYさんと前の支店が同じで後輩に当たり、YさんとZさんの先輩・後輩関係は深い
    →Yさんはうちの商材たくさん販売してくれてるのでYさんに依頼して、Zさんを紹介してもらって巻き込んでいこう
  • C社で1番当社の商材を販売してくれるXさん、サウナが趣味らしい
    →一緒にサウナ行って、他の仲良しメンバーも呼んでもらってもっと関係値深めよう
  • D社のWさんとVさん:月5件は商談くれて「行動」してくれてる
    →もっと受注率が上がるように、追加でこの機能のインストールを行おう
  • D社のTさんとUさん:商談1件も組めてない状態
    →もっと認知を取りに行く施策やライトに声がけできる施策を展開しよう

このように、各情報に対しての動きや各フェーズに合わせた施策展開などが実施できるようになるため、パートナー企業の営業担当単位での情報管理・フェーズ(習熟度)を管理し、スコアリングしていくことも非常に重要です。
※最低限、抑えておきたいパートナー企業の営業担当の情報については下記を参照ください。

④「成果に繋がる活動」が⾒えない

直販では入ってきたリードに対して、ISがアプローチした結果をSalesforceやHubSpotなどのCRMへ入力したり、FSが商談を前に進めていく際にCRMに記録を残したりすることが当たり前に実施されている企業が多いでしょう。

しかし、パートナービジネスにおいては、この1つのシステムに情報が溜まるということが実現しづらい環境にあります。なぜなら、パートナーセールスはパートナー側のやりやすいコミュニケーション方法に合わせるのが鉄則であるからです。

以下の才流様のアンケート結果においても「メーカーとコミュニケーションしやすい・連携が取れている」が最も多い回答結果となっていることからもわかるように、メーカー⇔パートナー間のコミュニケーションの取りやすさがどれだけ重要かがわかります。

出典:https://sairu.co.jp/method/22925/

それ故に、パートナー側の利用しているチャットツールに合わせてチャンネルを設けていただくことが多く、slackやChatwork、メールなど多数のコミュニケーションチャネルで連絡を取っていることが多いです。
※コミュニケーションチャネルをパートナーさん側が利用するチャットツールに合わせることで得られる大きなメリットについては、下記の記事を参照ください。

一方で、SlackやChatwork、メールなどにやり取りが散在することでデータが1箇所に溜まらず、追跡‧計測できないというのがデメリットとなります。故に情報が属人化しやすく、どのパートナーが動いているのかというのが感覚的になってしまい、「成果に繋がる活動が⾒えない」というのがパートナービジネスにおける最も大きな負であると捉えています。

ただ、特に「メーカー<パートナー」というパワーバランスであるうちは、「パートナーさん側が望むコミュニケーションツールで連絡を取ることを最優先に考える」ということをお勧めします。

まとめ

長くなってしまいましたが、パートナービジネスにおける課題の一丁目一番地である「パートナーさんが売ってきてくれない」という課題を解消するには、以下の要素を前提に考えておくことが重要です。

  • 「メーカー<パートナー」というパワーバランスからスタートするということを前提で考えておくこと
  • パートナー契約直後からパートナー側と目標を握る、トップダウンで落としてもらうのはかなり難しい
  • 「メーカー<パートナー」の状態だと、ポータルサイトやPRMへのログインは機能しない
  • パートナー側の信頼残高が溜まっていくような活動やパートナーさん側が得られるメリットをいくつも作る活動に徹し、徐々に「メーカー≦パートナー」→「メーカー=パートナー」といった具合に真のパートナーへと昇格していくべし
  • パートナー企業ごとの習熟フェーズに分けて管理し、習熟フェーズに合わせてKGI/KPIを分けること
  • パートナー企業の営業担当単位での情報管理・フェーズ(習熟度)を管理し、スコアリングしていくこと
  • パートナー側が望むコミュニケーション手法に合わせること(パートナー側が利用するチャットツールに合わせてチャンネルを設けることを推奨)

パートナーセールスは、自社のファンを増やす「ファン・マーケティング」であると考えています。

まずは「メーカー<パートナー」というパワーバランスから「メーカー≦パートナー」→「メーカー=パートナー」となるように、各パートナーさんの中での自社の「ファン」を1人でも多く作って行きましょう!

最後に

パートナーセールス研究会にご参加をご希望の方は、LPページの下記お問い合わせからご連絡ください!

コミュニティへのご参加は無料です!是非皆さんでパートナービジネスを学び合いましょう!!

パートナーセールスの伴走支援します!

大手SaaSでパートナーセールスに従事し、パートナーセールスをハンズオンでゼロから立ち上げました。

その過程で、300社以上が参加するパートナーセールス研究会を立ち上げ、多くの企業と成功事例を共有してきました。

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